前回のブログで私は歯根膿瘍と書きました。
しかしながら、専門的にはウサギは歯根を持ちません。一生伸び続ける歯(常生歯)には解剖学的には歯根はないことになっています。
ここらへんのところは大変専門的でややこしいので、飼主さんには、「歯の根に膿みが溜まる。歯根膿瘍です。」と説明していますが、以下の文章では正しく、根尖膿瘍(コンセンノウヨウ)と書いていく事にします。
何度も繰り返しになりますが、ウサギの歯は伸び続けるので、歯肉と歯がしっかりとはくっついていません。伸びない歯をもつ私たちの歯が、大地にしっかりと根をはるように歯茎に埋まっているのにくらべると、挿し木したばかりの若木のような頼りない感じです。ただし、埋まっている部分の長さはかなり長く、出ている部分の3倍以上は埋まっています。
付着が弱いために歯肉と歯の間に餌の残さがはいりこみやすく、どんどん進んでいって炎症をおこし、そのことでさらに付着がゆるんで歯が傾いてしまいます。一般的には、上顎の臼歯は外側(ほっぺの方)下顎の臼歯は内側(舌の方)に傾きます。
ウサギの口のなかを観察すると、健康な臼歯は歯の丈が短く、歯肉からほとんど歯がでていないのにたいして、傾きが異常で口内炎を作っている臼歯の丈は高い傾向にあります。
おそらく、上下で正しく噛み合わせができて、充分咀嚼されている臼歯は丈が短く、その結果として歯肉と歯の間に物がはいりこみにくくなっていると私は考えます。
さらに、ウサギの中には生まれつき下あごの幅が正常よりも狭い個体がいて、このようなウサギは、比較的早期(1才位から)から臼歯の不正咬合を発症します。
臼歯の不正咬合の初期には歯の根(根尖)に炎症がなかった場合も、長い経過の間に炎症を起こしてくる場合がほとんどです。
それ以外に、成長期にトウモロコシなどの高蛋白でカロリーの高い餌を多給すると、歯を支える歯槽骨が弱くなり臼歯が傾きやすいという説もあるようですが、詳細はわかりません。
いずれにしろ、均等で充分な咀嚼とそれを支える健康な歯肉と顎の骨が臼歯の不正咬合の発症をおさえ、それに続く根尖膿瘍の発症をふせいでくれるのです。
さらに考えると。臼歯の不正咬合が根尖膿瘍をひきおこし、根尖膿瘍がさらに不正咬合を悪化させると思われます。
第6話にも書きましたが、獣医師の行う臼歯の不正咬合の処置は、不正咬合によって飛び出して尖った歯の先端を削ったりカットして、尖った先でできた口内炎を治癒させる。また、根劣膿瘍になって緩んでしまった臼歯を抜歯して膿みを排膿させるということです。
残念ながら臼歯はまた伸びてきますし、抜歯ができるほど緩んだ歯の根は顎の骨の骨膜炎(顎の骨そのものが化膿している)をおこしていることがほとんですので、抜歯して終了とはなりません。
わかりにくい話を長々と書いてしまいました。
長くなったので、その先の話は次の小話に書いていきましょう。