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自分が怪我をしてわかったこと

2016年の12月に私は事故で骨折し、手術をして28日間入院をしました。

幸い後遺症はなく、退院後すぐ仕事を再開できました。

急な入院で、飼い主さんには本当にご迷惑とご心配をおかけしたことをおわび申し上げます。骨折したのは胸椎です。背中の真ん中あたりの背骨の2つにひびがはいりました。

背骨には大事な神経が通っていますが、幸運にも神経にさわる骨折ではありませんでした。

ただし、そのまま動けば変形がおきて神経に障害がでるおそれがあり、また痛みが続く心配がありました。

 そこで、外科手術をして折れたところが動かないようにして、しっかり骨がつくまでコルセットをつけることになりました。

怪我をしてから手術までの5日間。手術をしてからコルセットが出来あがりベッドから起き上がれるまでの4日間、計9日間、私はベッドの上でほとんど動かずに上を向いてすごしました。寝たまま過ごすというと簡単に聞こえますが、食事も排泄もすべてベッド上で、痛みと闘いながら行わなければならないのです。

私の場合は、手も足も首も自由になるのですが、体幹をうごかすと背中がひどく痛いので、結果的には上をむいた状態(身体をひねると骨がずれるおそれもありました。)でじっとしていました。

 昼間はスタッフからメールで連絡をうけたり、知り合いの獣医師に診療についておねがいしたり、医師や看護師さんにいろいろ世話をかけたりしてすぎていくのですが、夕方になると病室は静かになり、痛みと闘いながら天井とにらめっこして時間がすぎていくのを待っていました。

このとき私は、自分が治療してきた動物たちのことを考えていました。

病気や怪我で身体が不自由になったり、痛みを感じたり、それ以外のいろいろな不都合な苦しみがあるであろう動物たちを治療してきて、それらの苦しみを緩和したり、なくしたりしてきたつもりでした。

自分自身が治療される立場になってみると、治療の過程で、動物たちにしなくてもいい我慢をさせてきたかもしれないと思い至りました。言い換えると、不愉快な症状をしっかり診断して、できる限りはやく取り除く姿勢がまだたりなかったと思いました。

先の文章に私は「痛みと闘う」と書きました。これは時間とともに痛くなくなっていくだろう、治っていくだろう、という希望があるからこそ出来ることで、自分の身体の予測のできない動物たちには、闘うという意識はなくただ耐えるということに他なりません。

 また「いろいろな不都合な苦しみがあるであろう」と書きましたが、苦しさは痛みだけではありません。動物の場合は治療する側が診断し、推し量って治療をすすめなくてはいけないのです。

一次診療を行う獣医師の一番深く、難しいところかもしれません。

「仕事に復帰したら、出来るだけ我慢させないで治療していこう」

天井をながめながら、こんなことを考えていました。

 一方、入院中、特にベッドから下りられない間は生活のほとんどを看護師さんや看護助手さんにゆだねなければなりません。

看護師さんの仕事ぶりには頭がさがりました。

さわり方一つで痛みが楽になったり、声かけ一つで安心できて食欲がでたり、そのようなことがあるという事を言葉ではわかっていました。

ただ現実に自分が苦しい状態におかれて始めて良い看護によってどれだけ心身が救われるか実感できました。

動物たちも同じように、家族や好きな人から触って声をかけてもらうだけで、楽になり元気がでると断言できます。

怪我をしてから5か月たち、おかげさまでコルセットを外してもよ

いと主治医に言ってもらいました。

まだ無理はできませんが、しばらく行けなかった学会やセミナーにも参加できます。

病院のベッドで考えたことをかみしめて、これからの診療をしていこうと考えています。