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ウサギ小話 第9話「続・歯の根が腐ると?」

これから書いていくこともなかなかマニアックな内容で、私自身の自己満足のようなプログになってしまいますが、8話に続けて書いていってみます。

自分の病院のカルテで統計をとったわけではありませんが、根劣膿瘍から骨膜炎になり、皮膚の下に膿瘍(膿みがたまること)をつくって手術が必要になってくるウサギは以前(10年位前)に比べて少なくなっていると思います。

ある時期、根劣膿瘍から下あごや目頭の下に膿瘍をつくったり、眼球の後ろににできた膿瘍のせいで目が飛び出したりするウサギが立て続けにやってきて、治療に苦慮したことがあります。

眼球を摘出したり、膿瘍を切開して洗浄しても再発を防ぐ事ができませんでした。

当時日本語で書かれた専門書には膿瘍を袋ごと完全に摘出すれば治ると書かれていた物もありましたが、実際は根劣膿瘍を完全に摘出することは私には不可能でした。

海外の文献に、

「原因臼歯を抜歯して、歯科用の水酸化カルシウムを術後の患部に充填し、2週間ほどで取り出すと再発が防げた」

と報告されていたものがあったので、歯科用水酸化カルシウムを取り寄せて試してみました。

しかしながら、歯科用の物にはヨードが含まれており、殺菌作用が強すぎて薬に接触した部分が壊死をおこしてしまい、その壊死からまた膿瘍が作られるという事態になってしまいました。ヨードをふくまない試薬の水酸化カルシウムをつかってみると、今度は殺菌作用がよわすぎて膿に太刀打ちできません。

それ以外の方法として、抗生剤を含ませたビーズを患部に充填するという方法が発表され、国内でもいくつか論文発表されましたが、私は試したことはありません。

症例を経験していくうちに、膿と過剰に戦わないほうが上手くやっていけることがわかったからです。

もともとウサギの膿はクリームチーズやサワークリームのように硬くて、ドロドロしていないことが多いのです。これは膿を一カ所にとどめ置いて、周囲に広がったり血液中に細菌が流れ込むのを防ぐウサギの体の智恵のような物かもしれません。つまり、膿が少しずつ体の外にでて過剰に溜まらないようにすればウサギは生きていけるのです。

具体的には、切開した傷が塞がらないように皮膚と皮下組織を折り返すように縫い付けてそこから膿をしぼりだすようにします。

これをやってもウサギの傷はすぐ塞がってしまうのですが、膿の出口は皮膚の真下にきており、局所麻酔で何回か切開していると、その部分がうすくなって、膿が溜まってきたときに自宅で押すと簡単に膿をしぼりだせるようになります。

また、出来るだけ原因歯を抜いておく事で、口腔内に膿を排泄させることができるようにしておくと、外見上はきれいなままでいられます。

膿を飲んでもだいじょうぶか?ですって

ウサギの体力がしっかりしていれば(免疫力が正常なら)大丈夫です。

ウサギの胃酸は胃の粘膜の一部から出るのですが、かなり強力でたいていの菌を殺してくれます。

その他にも鼻腔から出る場合や、涙管から出る場合もありますが、溜め込むよりも外にだすほうがずっといいのです。

ただし、膿を出し続けるということはウサギにとってとても体力のいることです。

先にも書きましたが、「正常な免疫力の維持」これがウサギが膿とたたかっていくために絶対必要なことになります。

歯の悪い子に機嫌良く食べてもらうために、ペレットをふやかしたり、牧草を細かく刻んだり、口のいれたり、きめの細かいケアはすべて飼主さんにかかっています。

膿をしぼったり、強制給仕したりしてウサギにきらわれないか?ですって

大丈夫です。ウサギはあなたを決して嫌ったりしません。さわってあげて触れ合えばふれあうほどあなたに馴れて、たよりにしてくれます。

最初に書いた通り、ウサギの根劣膿瘍は昨今減ってきたように思います。

これは、ウサギを愛する勉強熱心な飼主さんと、ウサギを診療する獣医師がウサギの餌と飼いかたを世の中に啓蒙していった努力の成果だと私は思っています。

気がつけば、10才以上のウサギさんが病院に来てくれるのも珍しくない光景になりました。

「年寄りだけど元気だね、頑張ってるね」と毎日ウサギに(飼主さんにも)話しかけています。